「ほんとうだったらどんなにいいか」(ラヴァーズ文庫「3シェイク」番外編/2014年頃のエイプリルフール企画)
やられっぱなしなのは性に合わない。芸能プロダクションの敏腕マネージャーとして知られる岡崎は、これまでの鬱憤を一気に晴らすために、まず単身で映画監督である佐野の事務所兼マンションに仕事を装って立ち寄り、打ち合わせ最中に「具合が悪い」と顔を覆った。
「風邪かな? 薬でも用意しようか」
ベッドの中では奔放な振る舞いをするくせに、仕事となると淫らな顔が嘘みたいに思えるほど真摯に取り組む佐野がソファから立ち上がるのを岡崎は引き留めた。
「待ってください、行かないでほしい。……今朝、幸村をロケに送り出す際、あいつに口移しで飲まされたコーヒーがやけに苦かったんです。なんだか……身体が熱くて……」
「口移し? 朝からずいぶんとお熱いことだね。目が潤んでいるようだが……もしかして媚薬でも飲まされたかな。冷静な岡崎くんが僕の事務所で乱れるのを計算ずくで」
「そんな……っ」
声を嗄らしたのは演技だ。だが、もう何度も幸村や佐野に貪られている身だけに、あのときにどんな声を出せばいいのかわかっている。隣に腰掛けた佐野が興味深そうにじろじろと睨め付けてくるのを意識しながら、岡崎は「暑い」と呟きながらシャツをはだけ、汗にまみれた肌をさらした。一世一代の嘘をつこうとしているのだから汗をかくのも当然だ。それが佐野の目には欲情の印と映ればいいと願いながら、あえて岡崎は目をそらした。それも、むろん演技だ。
「……どうしていいかわからない。疼いて……たまらない、佐野さん……」
「おやおや、今日の岡崎くんは大層素直だ。ま、そういうきみも可愛い。よほど強力な薬だったんだろう。効き過ぎて制御できなくなってるのかな。どうしたいんだ」
岡崎は無言で佐野に身を寄せ、擦りつけた。佐野の下肢へ手を這わせて、服の上からぎこちなく触れた。
「触りたい、佐野さんのここ……あなたを抱いてみたい」
「僕に?」
笑い出した佐野が腰を引き寄せてくる。さすが大人だけのことはある。抱いてみたいという言葉に動じることなく、岡崎の耳たぶを囓りながら「いいよ」と囁いた。低い声がじわっと身体に染み込み、熱いぬかるみを作る。
「たまにはいいだろう。僕はどっちも好きなんでね。僕を征服したいかい、岡崎くん?」
からかい声には答えず衣服を脱ぎ散らかし、素肌を触れ合わせた。ソファに寝そべる佐野に覆い被さる格好に、嫌でも興奮してしまう。もちろん演技なのだが、どこか一つぐらいは本気にならないと見破られてしまう可能性がある。
――男を抱くなんて初めてだ。でも、こうでもしないと俺の自尊心は崩れる一方だ。
剥き出しにした性器をぬるっと擦り合わせ、佐野が出してくれたローションを使って滑りをよくした。愛撫もなにもあったものではない。柔らかくほぐす手順もすべて吹っ飛ばして、佐野の窄まりを指で何度か探ったあと、強引に腰を突き込んだ。犯してやることしか頭にない。
「あ……!」
「……ッ……きつい、な、岡崎くん……もっと、奥まできてごらん」
佐野に腰を掴まれてぐうっとねじ込む形になり、思ってもみない熱く湿った肉襞に締め付けられた。一瞬で蕩けてしまいそうな熱さは危険だ。
「は、っ、んぁ、あ……いい……佐野さん……っ……」
快感に溺れるようにぐっぐっと猛ったものを押し込む岡崎は初めて味わう男の熱い味の虜になっていた。佐野の長い指が身体中を這い回り、乳首をつねり、陰嚢を揉み込む。狂ったように性器を佐野の陰部に押し込み、きゅうっと甘く締められて喘いでしまう。歳上の男のそこがこんなにも深い快感を味わわせてくれるなんて予想外だ。それでも、これが演技だということを意識している岡崎は、部屋のチャイムが鳴り、勝手に誰かが入ってくるのをわかっていながらも、佐野の身体を貪っていた。
「……なにやってんだよ、あんたら!」
怒鳴り声に佐野が汗ばんだ髪をかき上げ、岡崎を咥え込んだまま、ふふっと笑う。
「見ての通りだ。岡崎くんに一杯盛ったらしいじゃないか。淫乱な彼は自分からこうしたいと申し出たんだ」
「俺はなにも……盛ったってなに言ってんだ」
清廉潔白な岡崎が佐野を犯すという衝撃的な場面に幸村はどさっとデイパックを落とし、茫然としている。ロケなんて嘘だ。この時間に一人で佐野邸に来いと岡崎が命じていたのだ。短い髪が似合う若い獣みたいな男が目を丸くしているのを見て、岡崎は佐野と繋がったまま、手を伸ばした。
「来い、幸村」
「待てよ、なんであんたが佐野なんかに突っ込んでるんだよ、まさか同じこと俺にもしたいとか言うんじゃねえだろうな」
「来てくれ……幸村、おまえの、硬くて……太いアレを舐めたくてしょうがないんだ」
「……くそっ、澄ましたツラして言うんじゃねえよ!」
小さな火でもすぐに沸騰するのが若い幸村らしい。一瞬は怯んだ顔を見せたものの、情欲に潤んだ岡崎から離れることはできなかったのだろう。乱暴にジーンズのジッパーを下ろし、ぶるっと鋭角に勃ち上がる肉棒を扱きながら岡崎の顔に擦りつけてきた。いつでも岡崎を犯せるように、幸村は下着を穿かない。先走りがたっぷりと溢れた赤黒い肉棒はエラが大きく張りだし、淫らすぎる。
「舐めろよ、ほら」
「ん――ぐ……ぅッ……っん、ん、んっ」
頭を鷲掴みにされた岡崎の口内を太い男根がじゅぽじゅぽと出たり挿ったりし、息継ぎもままならない。口いっぱいに頬張り、えづきそうになっても、突然始まった狂乱に幸村も夢中になってしまったようで、陶然とした顔でフェラチオを要求し、岡崎が舌を巻き付け啜り込むたびに、呻く。
「っんだよ……すげえいい……イキそうだ……ぶっかけてやる」
「駄目だ、幸村。……おまえは俺のものだ」
言うなり、岡崎はずるっと佐野から引き抜き、目の前で性器を露出している幸村を突き倒した。いきなりのことに反撃できない幸村を四つん這いにさせ、ローションでたっぷりと尻のあわいを濡らし、ついさっきまで佐野を犯していたもので、今度は幸村の中へと侵入した。
「……ッ……岡崎っ、さん……、馬鹿、やってんじゃねえ……! ……なにしてん、だ……! うあ……っ」
引き締まった尻を掴んで容赦なく突き込んだ。熟練した佐野とはまた違い、若い男の尻肉は盛り上がり、きつい締め付けで岡崎を酔わせる。犬のような格好でもっと泣けばいい。
「……いってぇ……痛い、って、……もっと優しくしろよ……!」
「いつもおまえらがやってることと同じだ」
涙混じりの声を気持ちよく聞いた。猛り狂ったもので貫き、若い男の瑞々しい内側を剛直で引き裂き、しだいに従順に搦め取られていく官能も味わい深い。
「僕は放ったらかしかな?」
「そんなわけがない」
隣に立った佐野のてらてら光る肉棒を根元から掴み、ためらいなく奥まで咥え込んだ。熱い舌全体でくるみ込み、じゅるっときつく吸い上げると佐野が息を吸い込み、どっと吐精する。多量の精液を飲み干す間も岡崎は年若の男を犯し、ようやく尻の奥が熱く潤んだところで幸村の耳元にくちびるを近付けて囁いた。
「犯される屈辱がわかったか。幸村もこんなふうにされても感じるんだな。勃ってるじゃないか」
「く……っ……あ……」
「おまえの中に出してやる。でも、全部じゃない」
「なに言って……っ」
暴力的に腰を振り、昇り詰めていく。言葉にならない絶頂感が押し寄せてきて、どくんと波打つ身体に任せ、濃い精液を幸村の中に放った。ひどく摩擦されて潤う肉襞に淫汁を浴びせてやる心地好さに身体が震える。
悔しさなのか快感なのか、幸村が拳で床を叩く。
「っ……! くっそ、こんな……! あぁ……っ」
「締めろ、幸村、そうだ……おまえは俺のものだ。佐野さん、あなたもだ」
射精途中の肉棒の根元をきつく掴んで快感をせき止め、たった今口の中で果てたばかりで弛緩している佐野を押し倒し、まだひくついている窄まりに正面からもう一度突き込んで、残りのすべてを注ぎ込んだ。ひくひくっと蠢く肉襞を蕩かすように最後の一滴まで奥に擦りつけた。
「っ……! 岡崎くん……!」
「佐野さんも幸村も……、俺のもので濡らしてやる……」
「……岡崎、さん……」
岡崎が放った白濁を腿の深いところから零す幸村が掠れた声で呟き、熱狂さめやらぬまま手を伸ばしてくる。佐野も妖しい輝きを目に浮かべ、「……よかったよ、すごく」と胸に手を這わせてくる。
「まさかきみにこんな度胸があったとはね。おもしろい。僕らの関係はまだまだ進化を遂げられそうだ」
「岡崎さん、……あんたになら俺、もう一度突っ込まれてもいい。あんたの硬いチンポをケツに突っ込まれてガンガン揺さぶられるのって、思ってたよりいいな。他の奴だったらぶっ殺してるところだけど、岡崎さんは特別だ。あんたのエロい顔がたまんねえよ」
「ふたりとも、俺のものだ」
四本の腕に搦め取られる岡崎はようやく微笑んだ。支配される屈辱から、支配する快感へとすり替わった一瞬だった。
ふっと目が覚めたのは頬を軽く叩かれたからだ。気付けのために叩かれたのだとわかり、あたりを急いで見回す前に、身体の奥にずんと突き刺さる強い熱に、岡崎は声を失した。
「意識失ってんじゃねえよ。俺が愛してやってんだろ?」
「ゆき、むら……っ」
「気絶していたのはほんの一瞬だ。なにか楽しい幻でも見ていたのかな? 口元が笑っていたよ」
「あ、あ……っ」
幸村に下から突き上げられ、顎を掴まれてぐぐっと首をひねると、先端からトロッとした滴を垂らした肉棒が口いっぱいに突き込んでくる。濃くて癖になる、佐野の味だ。
「ん……ふ……っぁ……」
嬌声を上げても悲鳴を上げても、誰にも届かないここは佐野のマンションの一室だ。ふたりの男を相手に今日も組み敷かれ、快感をぎりぎりまで引き延ばされている最中に気を失ったらしい。
「すっげえ……きゅうきゅう締まる。どういう夢見てたんだよ。岡崎さん、夢ん中でもエロいことしてんのか?」
「ちが、……ん……ぁぁ……っ……!」
「違うはずがない。賢いきみは僕らを犯して雪辱を果たしたいと妄想していたんじゃないかな? だから……僕のものをおしゃぶりする舌使いもさっきよりずっと熱心だ。いいね、岡崎くん。きみの頭の中をのぞいてやりたいよ」
「なにを考えてるんだ?」
ふたりに問われ、絶頂に追い詰められていく岡崎は涙混じりに口走った。
「なにも……っ……ただ、おまえたちだけのことを……考えていて……ずっと、それだけ考えていて……」
嘘ではない本音に幸村と佐野が示し合わせたように笑い、岡崎をさらなる快感へと落とし込むために動き始めた。