「夏のひかり」(ディオ×明日叶)


「プール?」
 突然の申し出に、俺は驚いて読んでいた雑誌から顔を上げた。
「そうだ。おまえ、いまいち平泳ぎがうまくできてないだろ。いまの時期、屋内の温水プールはあまりひとが来ないし、いい機会だ。俺が教えてやるぜ」
「ディオが……」
 今日は日曜日。
 あいにくの雨模様なので、ディオの部屋でのんびりDVDを観たり、雑誌を読んだりと、好き勝手なことをしていた。
 ディオもこういう過ごし方はきらいじゃないらしく、ベッドに寝そべって車雑誌を読んでいた。俺はその足元で、ファッション誌を広げていた。ファッションに疎いから、せめて雑誌を読んで勉強しないと。


「いやか、プール」
「いやじゃない、けど……」
 春先だから、確かに泳ごうと考えるひとはまだ少ないだろう。ちょっと格好悪い俺の泳ぎをディオに見せるのは恥ずかしいけれど、弱点克服ができるならそれに越したことはない。
 でも、と雑誌の陰からちらりとディオを見つめた。
 褐色の肌に広い胸板。逞しい両腕に、長く伸びた足。水着を着たディオはどこをどう見ても様になるだろうけれど、俺は……。
「なに見とれてるんだ?」
「み、見とれてなんか、ない」
「そうか? 熱っぽい視線をいただいたけどな。ここでストリップをしたっていいんだぜ」
「ディオのバカ!」
 腰をくねらせるディオを、丸めた雑誌で軽くひっぱたいた。くすくす笑うディオはほんとうにたちがわるくて、魅力的だ。
「わかった。泳ぐ」
 立ち上がった俺は皺の寄ったジーンズを伸ばす。すると、うしろからディオが両腕を回してきた。
「ディオ?」
「ちょっとの間、このまま」
「……このまま?」
 ディオの声がなんだかせつなく掠れていくことが気になって訊ねると、腰に頭をぐりぐりと擦りつけられた。
「……このまま、ベッドに押し倒してやりてえよ」
「っ……そんなの、……昨日、散々しただろ」
「あれは昨日のセックス。今日は今日のセックスがあるだろ」
「……いつまでもそんなこと言ってると、泳がないぞ」
 声が上擦りそうなのを懸命に堪えて言うと、「それは困る」と返ってきた。
「せっかくのおまえの水着姿だからな。目に焼き付けておかないと」
「夏中、ずっと水着だっただろ」
「あれはあれ、これはこれだ」
 小憎たらしいことを言う男を睨んでやると、ふっと笑ったディオが顔を傾けて、甘い甘いキスをくちびるに落としてきた。



「ほんとだ、……貸し切りだ」
「な、俺の言ったとおり。これなら飛び込みの練習もできるぜ」
 ディオの言うとおりだ。本格的な春が来る前のこのシーズン、休日に、寮に隣接されている屋内温水プールで泳ごうなんて考える生徒は俺たちだけだったらしい。
 ディオは黒の、俺は紺の競泳用ビキニパンツを穿いて、プールサイドに出た。ほんとうは、もっと普通の水着でよかったんだけど、ディオに「これにしておけ」と押し切られてしまった。
「よし、軽く準備運動だ」
「うん」


 ふたりして腕や、足を引っ張り合いながら筋肉をほぐす。俺はどうも背中が硬いから、平泳ぎみたいに背中の筋肉を綺麗に使う泳ぎ方がうまくできない。
「よし、じゃあ、入るか。軽く泳ごう」
 ディオが先にゴーグルをつけてプールに入る。ウォーミングアップと称して、ゆったりしたクロールで泳ぐ姿は、とても綺麗で、決まっている。
「ディオ、水泳もうまいんだなぁ……」
 身体を使うことに関してはだいたいオッケーみたいで、男の自分から見ても羨ましい。
 隣のレーンで、俺も泳ぎ始めた。青くきらきらした水と戯れていると、頭の中からよけいなものがぽろぽろ落ちて、気持ちいい。
 ひとかきするたびに、リラックスしていく。
「調子、よさそうだな」
 クロールで十周泳ぐ頃には、しっかりエンジンが温まっていて、ディオの言葉にも、「うん」と笑顔で頷けた。
「ディオの言うとおりだ。誰もいないプールって気持ちいいな」
「だろ? じゃ、次は平泳ぎの特訓だ」
「わかった」


 同じレーンに入ってきたディオに掴まりながら、身体を水平に保ち、キックの練習を始めた。
「……次に左右のかかとをつけたまま、膝を外に向けて、尻に引きつけ足首を曲げる……そうだ、上手だ。左右のかかとをつけたまま、後ろにキック! そして最後のキックで左右のかかとを離す……うん、それでいい。ちょっとこれで泳いでみろ。できるだけ、固くならずにな」
「う、うん……わかった」
 ひとつひとつの動きを身体に覚え込ませ、キックすると身体がふわっと前に進む。
「あ、……できた!」
「そのまま泳いでいってみろ」
「うん」
 息を吸い、膝を外に向けて……キック! それから、左右のかかとを離す。
 まだどこかぎこちなさが残るけど、なんとかできる。
「これ、十周ぐらいしたらいけると思う」
「だな。いまのはウェッジキックといって、オーソドックスな泳法なんだ。もうひとつ、断然泳ぎが速くなるウィップキックというのもある。競泳選手はこっちの泳ぎ方だ。明日叶、覚えるか?」
「覚えたい。今日、調子がいいみたいだし」
「よし。じゃあ、最初は俺の泳ぎを見ておけ」
 そう言ってゴーグルを装着したディオがゆっくりと形を見せてくれる。水中で見るディオは別人みたいだ。
 まるで、水泳部に所属し、毎日何キロも泳いでるひとのようななめらかな動きを見せてくれる。
 二、三回ほど水をかいたあとは、あっという間に五十メートルの向こうまで行ってしまった。
「速い……」


 ザバザバと泳いで戻ってきたディオが、「どうだ、やれそうか」と言うので、「やってみる」と頷く。
「じゃあ、こっちだ。まず、両手を体の横にした、いわゆる、気をつけの姿勢から始めるか」
「気をつけ」
「ふわっと前に進んで浮いて……大丈夫だ、俺が支えている」
 腹の下に、ディオが手を入れて支えてくれる。
「左右のかかとを尻に引きつける。膝は内向き、かかとは外向きを意識しろ。そうだ、うまいぞ。それができるようになったら、両手を前に伸ばす。……上出来だ。これがウィップキックだ。水を蹴るイメージから、水を挟むイメージに切り換えればいい」
「水を、挟む……こう、かな」


 ディオに教わったことを身体の内側に溜めておくような意識で、かかとを外向きに、両手を前に伸ばす。
 さっきとは違う、すいっと前に突き進む鋭いイメージが身体に残った。
「明日叶にはこっちのウィップキックが合っているみたいだな。動きがなめらかだ」
「ホントか? でも……うん、自分でもなんとなくそんな感じだ。素早く前に進めるイメージなんだ。ちょっと恥ずかしいけど」
「イメージは大切だ。どうなりたいか、頭でイメージトレーニングしておいたことが形になって現れるんだ。たとえば……ここも、そうだ」
 言うなり、ディオが俺の身体を掴み、水中でするっと胸に触れてくる。
「な……っディオ……!」
 飛び込み可のプールだから、深さがある。ディオにすがらないと溺れてしまいそうだ。
「い、やだ……こんな、ところで……っ、ディオ!」
「明日叶の乳首はそう言ってないぜ。俺に触られたがってる。もっと気持ちいいことをしてもらいたがってる。こんなに敏感な場所を、よく平気で晒しておけるな。目の毒だ」
 低い囁きに身体中が熱くなる。


 いまのいままで、ディオの前で裸同然の身体を晒していたのだと思うと、頭が煮えくりかえりそうだ。
「ッ……ん、んっ……ディオ……っ」
 乳首をつままれ、こねくり回されると、甘い痺れが足の裏からきゅんとこみ上げてくる。水の中だからか、いつもより敏感に感じ取ってしまう。
 ディオが顔を傾けてきて、強くくちびるをふさいできた。
「は……っぁ……」
 最初から噛みつくように、舌をきつく吸われて舐めしゃぶられ、「――ん」と声を漏らしてしまう。
 ディオの肩にすがり、乳首を揉まれる刺激に浸った。木の芽を擦るように肉芽を弄られると、自分でも恥ずかしいぐらいの甘い声が出る。
 もっと――もっとなにかしてほしい。激しいことを、もっと、たくさん。
 瞬時のうちに燃え上がった意識が恥ずかしくて、慌ててディオを突き放した。
「明日叶?」
「……もう出る!」
「おい、待てよ!」
 重たい身体を引きずり上げ、シャワーブースに走った。冷たい水に打たれ、感じやすい身体をどうにかしてしまいたい。
 頭から凍えそうな水をかぶった。
「……バカ、風邪引くぞ」


 あとからブースに割り込んできたディオがノズルの温度を調節し、ちょうどいい湯を出してくれる。
 ちょっとの間でも水に打たれたことで歯がかちかち鳴っている俺を抱き締め、ディオが顎を持ち上げてくる。
「なんでそんなに怒った顔してんだよ」
「おまえが……いきなり、触るから……!」
「俺の恋人に触ってなにが悪い」
「……ッ……」
 反論、できない。したくないのかもしれないが、ひとつだけある。
「……以前の俺だったら、あんなこと……されて、感じるはずなかった……のに……」
「感じやすい乳首を触られて感じちゃったか、俺の明日叶は?」
「バ、バカ、言うな、もう!」
「じゃ、もう触らないほうがいいか」
「う……」


 俺のこころを見透かすディオに、嘘はつけない。こいつはひとのこころを暴いて弄ぶ、詐欺師だ。
 そうとわかっていて、俺は好きになった。嘘の裏側に隠れ潜む、たったひとつの真実を知りたいという気持ちがあるのを知ったから。
「……触らないのは、……いやだ」
「じゃあ、どうする」
 尊大な声に腹が立つけれど、言い返せない。シャワーに打たれながら、勇気を出してディオに抱きついた。
「……して、ほしい……ディオのしたいこと、たくさん」
「……いいぜ、ガッティーノ。俺に噛みつかれて無事に帰れると思うなよ」
 牙を剥くようなディオが肩口に噛みつきながら、じんじんする胸を引っかき、そのまま下肢へと下りる。
「あ――……っぁ、ぁ、っ!」
 ビキニパンツをぐいっと持ち上げられ、半勃ちになっていた性器を露出させられて握り締められた。
「あぁ、っ、あっ、ディ、オ……とろけ、る……っ」
「可愛いこと言うじゃねえか。明日叶のここ、もうガチガチだ。俺にキスされただけで感じてたのか?」
「ん……っだっ、て、あんな……激しいキス、されたら……っ」


 立ったまま、キスを受け止めて、性器を扱かれて。
 こんな激しい愛撫、ディオ以外の誰にもできない。
「ん、……も、ぉ、だめ、ディオ、っ……イく、イっちゃう……っ」
「ああ、俺の手の中にたっぷり出せ」
「ん、く……っ」
 乳首とペニスの両方を同時に責められて、俺はがくがくと膝をふるわせながら、絶頂に達した。
「あっ、ん……っんんん、っ、あ、ぁ……っ」
 たっぷりとした熱いしずくを厚みのあるディオの手の平に放つ。支えてもらっていなかったら、そのまま崩れ落ちていたはずだ。
 出しても出してもまだ飢えているような感じがして、恥ずかしい。
 俺、いつからこんなに欲しがりになったんだ?
「待てよ、明日叶。本番はこれからだろ?」
 耳たぶをきゅっと噛まれて、ディオに抱き上げられ、甘いくちづけを受け止めた。



 濡れた水着姿を、他の誰にも見られなかったのは幸運だったと思う。
 ディオの部屋に入り、熱いシャワーの下、ふたりして笑いながら水着を脱いで抱き合った。
 さっきまで水に浸かっていたせいで身体が敏感になっている。
 邪魔なものがなにもなくなったところで、ディオがシャワーを止め、大きなバスタオルで包み込んでくれる。
「ふふ……、ディオ、くすぐったい」
「ちゃんと髪を拭いたほうがいい。風邪引くぞ」
「そしたら、ディオに移すからいい」
「……バーカ。とっくにおまえには参ってんだよ」


 裸の身体を抱き上げられ、ベッドに運ばれて、そっと下ろされた。
「ディオのこういうとこが好きで……むかつく」
「なんで」
 ディオが驚いたように目を瞠る。その頬にキスして、俺はディオの首にしがみついた。
「口がうまいし、……ベッドの中のことも上手だし」
「そんなのは情熱でなんとでもなるだろ」
「でも! でも――俺とディオは同い年なのに、いろんなことが違う。知力も、体力も、おまえには絶対に勝てない。そんなおまえが好きなのに、悔しいんだ」
「……バカだな、明日叶は」
 苦笑いするディオはこつんと額をぶつけて、目の奥をのぞき込んできた。
「俺に勝てないのは当たり前だ。俺はつねにおまえの一歩先を行くようにしているんだ、これでも」
「これでも?」
「好きな男の前を歩いていたいと思うもんだろ?」
「そ、それは……俺だって、同じこと思う、し」
「だけど、俺だっておまえに勝てないものがあるんだ。なんだか知りたいか」
「知りたい」


 意気込むと、ディオがくちびるの脇にちゅっとキスしてきて、笑いかけてくる。その笑顔がなんだかとても自然だったから、つい見とれてしまった。
「その純粋さが、おまえの武器だ、明日叶」
「純粋さ……」
 思わぬ言葉に、裸なのも忘れてディオにしがみついた。
「一度こうと決めたらとことん突き進む強さが、おまえにはある。最後にはかならず勝利と真実を掴む純粋な力があるからこそ、俺はおまえに弱いし、おまえが好きなんだ」
「ディオ……」
「愛してるぜ、明日叶。おまえの全部が欲しい」
「……俺も、ディオを愛してる。ディオだけを、愛してる」
 互いに顔を寄せ合い、くちびるを重ねた。
「ん……っ……」


 ついばむようなキスから始めて、しだいに、深く舌を絡め合っていった。
 ちゅく、とディオの舌を吸うと、もっと大胆に、いやらしい感じで舐め上げられた。
 湿った髪を梳かれながらのキスは、とても気持ちいい。舌先だけをのぞかせて、くちゅっと吸い合った。飲みきれない唾液が口の端からこぼれてしまう。
 ディオがそれを指で拭ってくれて、口に含ませてくれた。
 口内を、ディオの指が蠢く。温かい唾液を絡めて動くディオの指が、セックスを連想させて淫らだ。
「ん……」
「乳首、舐めさせろよ」
「っ、ん、……うん、……」
 こよりのようによじり立てられた乳首をカリッと噛まれ、息が途切れる。乳首を囓り回され、ちゅぱちゅぱと音を立てて吸われるともう顔が熱くなってしまう。
 俺、女の子じゃないに……ディオは執拗に胸を弄りたがる。舐めて、噛んで、噛み回して、指でも弄り回す。ディオの長い指で乳首をつままれると、自分でも恥ずかしくなるぐらいの声が出てしまう。
「は……ぁ……っ、あぁっ……」


 散々舐り回されて、気づけば、下肢に手を置かれていた。
 ――でも、今日は俺だって。
 そう思って身体を起こし、ディオからすり抜け、馬乗りになった。
「明日叶?」
「……俺がする」
 はぁっと熱い息を吐いて、ディオの逞しいそこに顔を寄せた。
「……ディオの、もう、すごい大きくなってる……」
「おまえを触ってたせいだ。……明日叶、舐められるのか」
「ん、……うん」


 無理するなと言われるかと思ったら違った。舌なめずりしたディオが、「見ていてやる、全部」と言う。
 耳まで熱くなったけれど、引き返すことはできない。
 張り出したエラと、くびれの間を舌先でそっと舐め取り、湿っていく段階を追って、少しずつ、少しずつ亀頭を口に含んでいった。
「っん……ぁ……」
 口の中を犯すディオのもので、熱っぽくなる。じゅぷ、といやらしい音を響かせて舐り、口蓋に擦りつけた。
「ん、んんっ、はぁ……っぁ……」
 苦しいはずなのに、口淫がやめられない。何度もディオのものを含み直し、ぐちゅぐちゅと舐り回した。濃い茂みもディオらしい。陰毛を束を口に含んで嬲ると、くすぐったいのか、ディオがくすくすと笑って、髪をかき回してくる。
「……っく、明日叶、……」
 顔をしかめるディオの声が色っぽい。
「俺の口の中で……」
 イってほしいと言いかけたのを、ディオが遮り、俺を抱き寄せた。


「だめだ、これ以上……おかしくなる。おまえとひとつになりたい」
「ディオ……」
 抱きつくと、うしろの窄まりを唾液で湿らせた指で探られた。ディオの指を感じるたび、いつもそこが淫らにひくついてしまう。
「明日叶……」
「あ、あぁ……ディオ、っ……」
 ディオの上にまたがり、彼のものが刺さるような恰好にさせられた。
「ゆっくりでいい、……腰を下ろせ」
「ん、うん、……っ、あ、――お、っきい……っ」
 ディオが、俺の尻たぶをぐっと左右に押し拡げ、もっと深くまで咥え込ませてくる。
 こんなディオ、初めてだ……。
 じゅぽっと肉棒を引き抜き、また最奥まで突いてくる。力強くて、なのに執心もあるディオのセックスに溺れ、俺は夢中で腰を振った。
 ディオが、そういう淫らな俺をなにより好むと知っていて。
「は、っぁ……、っ、――……ん、ディオ、ディオ……っ」
「奥まで……届いてるか」
「うん、……熱いのが、いっぱい……、もぉ……、あぁっ」


 一度引き抜かれ、今度は正面からズクリと挿し込まれた。どんな体位を取らされても、最後は正面から抱き合うのがお互いの暗黙のルールだ。
「だめ、イっちゃい、そ……っ」
「いいぜ。俺に抱かれてイけよ」
 ディオが強く腰を遣ってくる。つらいほどに気持ちよくて、果てそうだ。
「あ、あっ、……ん、ん、イく、イっちゃう……っ」
「……ッ……」
 俺が射精したのとほぼ同時に、ディオが激しく腰を打ち付けてきて、最奥にしぶきを放つ。いつもどおり、たっぷりとしたディオの精液を中で受け止め、飲みきれないぶんは尻の狭間へとこぼれ落ちていった。
「……はぁ……っ、あ……」
「明日叶……」
 色香の漂う吐息をついて、ディオがくちづけてくる。
「すごい、……よかった。水泳であんなに疲れてたのに……」
「ほどほどに疲れているといいセックスができるって言うだろ?」
 慣れたことを言うディオを思わず睨んだ。俺をからかってるのか、試してるのかわからないけれど。経験豊富だとでも言いたげなディオの肩に思いきり噛みついた。
「っつ……!」
「おまえに噛みつくのは俺ぐらいだろ、ディオ」
「……ああ、そうだな。後にも先にも、おまえだけだ。明日叶」
 可笑しそうに言うディオが、ねだるようにくちびるを寄せてくるから、「好きだ」とちいさく囁いて、キスをした。
 甘い、甘いキスを。



「タヒチ?」
「ああ。おまえと行こうと思ってさ」
 思わぬ話に、目を丸くしてしまった。
 学園内の庭で、ディオとふたりでランチを食べていたときに、「夏休みはタヒチに行こう」と誘われたのだ。
「なんで、またタヒチなんだ。ハワイとかじゃだめなのか?」
「だめじゃないけど、タヒチのほうがふたりきりになれる。水上コテージを押さえるから、ふたりで泊まらないか」
「ディオ……」
 ミッション続きの日々で、こんな話が聞けるのもめったにないから、「うん」と大きく頷いた。
「行きたい」
「だろ? じゃ、決まりだ。タヒチでは裸で泳いでも大丈夫だぜ。俺とおまえしかいない島に行くんだ」
「な、なんか……新婚旅行、みたいだな……」
 照れて言うと、耳たぶをちゅっとくちづけられた。


「おまえと俺の新婚旅行、第一回目だ」
「二回目もあるのか」
「お望みなら三回目もあるぜ」
 くすりと笑うディオに、俺も頬を熱くさせながら肩をぶつけた。
「水着は着る。それで、ディオに教わった平泳ぎで泳ぐ」
「そうだな。海がめちゃくちゃ綺麗だから、泳ぐのも気持ちよさそうだ。水泳はもちろんだが……腰が抜けるほど、気持ちいいセックスをしようぜ、ガッティーノ」
「う、受けて立ってやる」
 堂々と言い放った俺に、ディオが噴き出す。
 空は青く、雲は白い。
「明日叶」
 ディオがふと、顔を寄せてきた。
 キス、したそうな顔だ。
「ディオ……」
 甘い声で名前を呼ぶ。
 その熱が、ディオの胸に火を点けると知っていて。