「あいらぶ」(亮一×明日叶)


「うわ、結構降られちゃったなぁ……」
 黒い雨雲が渦巻く空を見上げて、俺は雨宿りに入った書店の軒先で、濡れた肩や腕をハンカチで拭った。寮を出たとき、まずい空色かなと思ったが、無精して折りたたみ傘を持ってこなかった。
 五月の空はすっかり重い色になり、ちょっとやそこらのことではやまなさそうだ。幸い、気温は高いから寒くて風邪を引くということはなさそうだ。
 街の図書館で借りた本は、きちんとデイパックの底に入れてあるから大丈夫。問題は、ここからどうやって寮に戻るかなんだけど……。
「どうしよう……タクシーかな」
 途方に暮れて空を見つめていると、ふいにクラクションが聞こえてきた。


 なんだろうと思って道路のほうを見た。
 赤い車が脇に停まり、中から手を振っているひとが見える。
「……亮一さん!」
「早くおいで。濡れてしまうから」
 慌てて駆け寄り、うながされるままに助手席に乗り込んだ。
「どうしたんですか? 亮一さんも外出予定でしたっけ」
「いや、ほんとうは今日中に新しいミッションの書類を作り上げてしまう予定だったんだけど、休日なのに一日中部屋にこもっているのもどうかと思ってね。気晴らしにドライブに出たら、きみを見かけた。ラッキーだな」
 くすりと笑う亮一さんが、後部座席からタオルを放り投げてくれた。
「洗濯したばかりのものだから、遠慮なく使って」
「ありがとうございます。どうやって寮に戻るか、考えていたところなんですよ」
「雨宿りしている明日叶、ちょっと寂しそうで可愛かったよ。きみが子猫だったら、拾いたいひとが群がりそうだ」
「もう、またそういうこと」
 亮一さんの言葉に頬が熱くて、タオルに顔を埋めた。
 俺と亮一さんは、チームグリフのメンバーと、そのリーダーという関係で、恋人同士でもある。優しくて、包容力のある亮一さんに、最初から惹かれていた。同性に恋愛感情を持つのはお互い初めてだったけど、亮一さんは拙い俺をしっかりと受け止めてくれた。
 車を路肩に留め、亮一さんがタオルを取り上げて頭をがしがしと拭ってくれる。


「しっかり拭いておかないと、風邪引くぞ」
「ふふっ、はい。亮一さん、お兄さんみたいだ」
「そうかい? 俺はきみが愛おしくて、心配なだけ」
「う……」
 あからさまな愛情表現には太刀打ちできない。亮一さんが口先で物を言っているのではないことぐらい、恋人の俺がよく知っている。
 タオルの陰からちらりとのぞくと、「ん?」と微笑む亮一さんが眼鏡を押し上げている。
「そんな可愛い顔をしていると、このままどこかにさらってしまうよ」
「りょ、……亮一さんなら……いいです」
 覚悟を決めて言うと、亮一さんは「参った」と笑いながら車を発進させた。
「ここ最近、お互い忙しかったからね。きみにあまり触れられなくて俺としてはいまにも爆発しそうなんだよ。あまり煽られると、狼になるぞ」
「亮一さんなら、食べられてもいいです」
「俺たちはどう見てもバカップルだな」
 可笑しそうに笑う亮一さんがハンドルを右に回す。
「明日叶はなにをしていたの?」
「街の図書館で本を借りたんです。学園にはちょっとなかったから」
「へえ、どんな本かな」
「え、と、……チェスの本、です。古いやつなんですけど、わかりやすい解説が載ってるってネットで紹介されていたから」
「チェスのことなら俺に聞いてくれればいいのに。どんなことでも教えるよ」
 親切に言ってくれる亮一さんだが、そんな彼に、俺はどうしても――勝ちたいんだ。正面から挑んで、手加減なしで戦いたい。
「亮一さんはすごくチェスが上手で、いつも、ゲームメイクしてくれるでしょう。でも、俺、真剣に挑む亮一さんが見たい。いまの俺ではまだまだ力不足だろうから、基礎からしっかりやり直したいんです」
「明日叶……」
 赤信号で車を停めた亮一さんが目を瞠り、ふっと微笑む。
「そんなきみが大好きだよ。俺がゲームメイクしてるって? そんなことない。最近じゃ、きみがどんな手で出てくるか、戦々恐々としてるんだから」
「ほんとうですか?」
「ほんとうだとも。そうじゃなきゃ、いま、ホテルなんかに向かってない」
「えっ」
 思わぬ言葉に正面を向くと、亮一さんはとある高級ホテルの地下駐車場に車を入れているところだった。
「そんな、突然……あ、あの、……俺、こころの準備ができてなくて……」
「俺の胸に頬をあててみて」
 そう言われたことで、思いきって身を乗り出した。
 亮一さんの左胸がとくとく言っている。
 ……亮一さんもどきどき、してくれてるんだ。
「俺は明日叶が欲しくてからからに渇いて、飢えている。思う存分、きみを補給させて」
「亮一さん……」
 亮一さんに顎を掴まれ、熱いくちびるが重なってくることに胸をときめかせながら瞼を閉じた。
 恋人同士だから、求め合いたい想いに火が点くと止まらない。そういうことなんだ。


 いつも寮のどちらかの部屋で抱き合っているだけに、こういうホテルはちょっとどきどきしてしまう。
 大きなベッドに、焦げ茶のどっしりとしたカーテン。
 清潔な室内だけど、亮一さんが背後にいることで、情事の濃い香りが立ち上る。
 デイパックをリビングのテーブルに下ろすなり、亮一さんが抱き締めてきた。
「ん……明日叶、ちょっと湿ってるな。このまま抱いてもいいけど、きみが風邪を引きそうだ」
「でも……俺だって、亮一さんが欲しくて……」
「じゃ、一緒にお風呂に入ろうか」
 にこりと笑った亮一さんは早速バスタブに湯を張る用意をしたあと、俺の服を楽しげに一枚ずつ剥がしていく。


「俺がどんなに明日叶を想ってエッチになるか、わかるかい?」
 低い声が欲情に満ちていて、俺を煽る。
 普段、温厚で真面目な亮一さんなのに、抱き合う時間になると濃密な顔を見せてくれる。それが、俺はたまらなく好きだ。
「亮一さん……っ、あ……っ、待って、手、もぐり込ませたら……」
 Tシャツの下から手がもぐり込んできて、軽く胸をくすぐられる。
「くすぐったい、だけ?」
「ん――……ぁ……そうじゃ、なくて……気持ちいい……」
 亮一さんの指で乳首をつままれ、きゅっきゅっと緩急をつけて揉み込まれるのが好きだ。どんなに歯を食い縛っても声が出てしまって、恥ずかしい。
「んんん、っぁ……っ」
 立ったまま抱き締められて、身体がふらつく。そんな俺を優しく支える亮一さんは自らも服を脱ぎ、バスルームへと誘ってくれる。
 クリーム色のバスルームは広くて綺麗で、バスタブも大きい。ふたりで入ってもまだ余裕がありそうだ。
「うん、ちょうどいい温度だ。おいで、明日叶。一緒に入ろう」
「……はい」
 贅沢にお湯をあふれさせながら、ふたりでバスタブに浸かった。


 雨で少し冷えていた肌がたちまち温まっていく。それは、熱いお湯のせいだけじゃなくて、亮一さんに抱き締められているからだ。
「あったかい……」
「な」
 見た目よりずっと逞しい亮一さんに背後から抱き締められながら、頷いた。
「俺、亮一さんにうしろからこうして抱き締められるの、大好きです」
「どうして? 俺もきみを抱き締めるのは大好きだよ」
「なんか安心できるし……亮一さんの手、好きだし」
「俺は、きみにエッチなことをしたくてうずうずしてるんだけど」
「……いい、ですよ。しても。さっきだって、ちょっと胸を触ってきたじゃないですか」
「あれは、ほんの小手調べ。いくら恋人同士だからって言っても、その気じゃないことはあるだろう?」
 亮一さんは優しく言う。


「亮一さんは俺を抱きたくないときがあるんですか?」
 肩越しに振り返り、正直に問いかけると、亮一さんは苦笑いして、「あるはずないだろ」と鼻先にくちづけてくる。
「いまだってきみをうしろから喰らおうかなと考えてるよ」
「ど、どんな……ふう、に?」
「たとえば……」
 亮一さんはいたずらっぽく笑って、俺の両足を開かせ、半勃ちになっている性器に指を絡めてくる。
「あ……」
「いけない子だな、明日叶は。話をしているだけなのに、感じちゃった?」
「ん、ん、……だって、亮一、さんの声、好きだから……っ」
 耳たぶを囓り回されながらペニスを扱かれると、たまらない。熱い湯を汚したらいけないと思って懸命に堪えようとしても、亮一さんの意地悪は止まらない。
「ああ、もうすっかり硬くなったな。明日叶、バスタブの縁に座ってごらん」
「ん……は、い」
 言うとおりに、腰の奥を痺れさせながらバスタブの縁に腰掛けた。そうすると、昂ぶった性器を亮一さんの視線にさらすことになって、恥ずかしくてたまらない。
 思わず両手で隠そうとする前に、亮一さんがそこに舌を這わせてきた。
「あ……っ!」
「ん……、明日叶、熱いよ」
 先端の割れ目を尖らせた舌先でくちゅくちゅとくすぐられて、どうしようもなく感じてしまう。
「ん、っ、はぁ、あぁ、あ……っ、やっ……」
「我慢しないで、明日叶」
 亮一さんの声に、つい彼の髪を掴んで引き寄せてしまう。淫らな仕草だとわかっていても、熱い口内に迎え入れられてじゅぽじゅぽと舐めしゃぶられる快感から逃れる術はない。
 竿をつうっと舌でなぞられて、我慢できない。


 ここ最近、亮一さんとしてなかったから、身体は過敏になっていて、すぐに達してしまいそうだ。
「は、っぁ、イく、もぉ……だめ、イっちゃう……っ」
「いいよ、俺の口の中に出して」
「ん、ん、……ッ、イく……っ!」
 下くちびるを強く噛んだ瞬間、身体がどくっと強く波打つ。
「あ……あぁ……は……ぁ……っ亮一、さん……」
 達したばかりの性器に、亮一さんは執拗にねろりと舌を絡めてくる。その熱さがたまらなくて、俺は身体をちいさくふるわせた。
「……これで終わり、だとは思ってないよね、明日叶?」
「はい、……俺、亮一さんとひとつになりたい」
 荒い息の下、なんとか言うと、亮一さんんが突然俺を抱き上げた。
「続きはベッドでしよう。きみの全身を愛したいんだ」
「亮一さん……」
 何度抱かれても、色褪せない情欲が胸にある。それが亮一さんにもあると知って、俺は嬉しくて彼に強く抱きついた。



「ん……」
 まだいくらか湿っている身体でベッドに横たわる。すぐに亮一さんが覆い被さってきて、乳首を舐め回す。根元からこよりのようによじって、真っ赤になった尖りをちゅくちゅくと美味しそうに吸う亮一さんは、誰よりも淫らだ。
「ん――……っく……」
「明日叶のおっぱい、美味しいよ」
「や、だ、……それ……っ」
「それって、なに? 乳首を吸われるのはいやかい?」
「そうじゃな、くて……俺、女の子、じゃないのに……」
 途切れ途切れに言うと、亮一さんは可笑しそうだ。
「ああ、なるほど。おっぱいって言われるのが困るんだね。でも、明日叶のここが美味しいのはほんとうだよ。きつく吸ったら、甘い蜜が出そうだ」
「で、出ない……」
 恥ずかしさに身悶えたけれど、くすくす笑う亮一さんに押さえ込まれ、身動きが取れない。
 乳首を甘噛みされて、意地悪く吸われて。


 ほんとうに、このままではなにか出そうな気分になってしまいそうなほど追い詰められたところで、亮一さんが身体の位置をずらし、両足を大きく広げてきた。
「ん……っりょう、いち、さん……っ!」
「しばらくしてなかったから、明日叶のここ、固くなってるんじゃないかな。傷ついたらいけないから、俺に中まで舐めさせて」
「っ……!」
 俺が亮一さんに絶対勝てないと思うのはこんなときだ。
 俺だったら照れて言えないことも、亮一さんはさらりと口にする。
 尻の窄まりに舌を這わせてくる亮一さんの熱さを感じて、腰がずり上がる。
「逃げないで、明日叶」
「っ、う……」
 腰骨をきつく掴まれ、ひくつく孔をじゅるっと啜り込まれた。
 指で狭い孔を拡げられて、舌を挿れたり出したりされて、蕩けそうになってしまうほど気持ちいい。
「初めてきみを抱いたときはここがあまりにもきつくて壊してしまいそうだったけど、……いまは、こんなにやらしくひくついてるよ」
「や、や、言わない、で……っ……」
 口では反論するけれど、亮一さんの熱心な愛撫を受け止める身体は熱く滾っていく。
 そんなところを舐められるなんて、という戸惑いと屈辱はあるけれど、快感が勝ってしまって亮一さんを突き放せない。
 何度も何度も舐められて、指を挿れられたときには、軽く達してしまった。
「あ……あぁ……」
「そんなに気持ちいい? ずるいな、明日叶。俺を置いてきぼりにして」
「だ、って、亮一さんがやらしく啜るから……」
 しゃくり上げながら訴えれば、亮一さんが手を掴んでくる。
「俺のここも、こんなになってるんだよ。……触ってごらん」
「あ、……すごい、亮一さんの、おっきい……」
「ん、……きみに挿りたくて挿りたくて、たまらない。いいかい?」
「はい、……俺も、亮一さんが欲しい……」
 必死に頷き、亮一さんの肩にしがみついた。すぐに亮一さんも覆い被さってきて、鋭く、熱い切っ先をあてがってきた。
「あ、――あ、ッ……りょう、いち、さん……っ……」
「明日叶、……息を、吐いて……」
 ズクンと大きなもので穿たれて、息が止まりそうだった。


 少し苦しいけれど、亮一さんの大きさと、硬さがよくわかるこの一瞬が俺はとても好きだ。背中にしがみつき、中に突き刺さる熱さを味わう。きゅうっと締めつけるようにすると、亮一さんが息を吐き出し、男っぽい色香を交えた顔を向けてきた。
「こら、明日叶、あまり俺を煽らないで。これ以上締められたら……きみに無理させてしまいそうだ」
「いい、少しぐらいつらくても、俺、あなたがもっと欲しい、もっと奥まで……っ」
「明日叶」
 真剣な顔になった亮一さんがゆるく動き出す。すぐにも激しい腰遣いになり、俺は頭から貪られる気分だ。
「あっ、あぁっ、く、ぅ、ん、っぁ」
「明日叶、明日叶……っ」
 とびきり硬い男根に犯され、声が上擦ってしまう。
「もっといやらしい声を聞かせて」
「や……っ……!」
 ぐちゅぐちゅと太いものを抜き挿しされて、かき回されて。
「ま、って、りょういち、さん……俺、また、イきそう……っ……」
「ああ、俺もだ。きみの中でイってもいいかい?」
「ん、ん、いい、……一緒がいい……一緒に、イきたい……」
 くちびるを重ねてくる亮一さんと舌を絡め合わせ、激しく吸い合った。とろりとした唾液が甘く感じられて、いつまでもしていたくなる。


 亮一さんのキスは魔法だ。またたく間に俺を燃え上がらせて高みに連れていってくれる。
「りょう、いち、さん……っ」
「ッ……明日叶……!」
 何度目かわからない絶頂感に襲われるのとほぼ同時に、亮一さんがぐっと息を詰め、俺のいちばん深いところで射精する。
 どくどくっと濃くて放埒なそれにうっとりしてしまい、亮一さんを何度も締めつけた。
「すごい……亮一さん、いっぱい出てる……」
「ああ、ずっときみが欲しかったから……まだ、もう少しだけ」
 俺の顔にキスを降らしてくる亮一さんが、目と目を合わせてきた。繋がったまま見つめられると、まだ情事の興奮から冷めやらない表情を見られてしまい、恥ずかしくてしょうがない。
 慌てて顔をそむけようとすると、亮一さんが、「隠さないで」と言う。
「イったばかりのきみの顔が好きなんだ。明日叶、色っぽくて、純粋で、俺をだめにする」
「それほどの……ものじゃないです。いまの俺、きっと、みっともない顔、してる」
「どうして? 俺がこんなに愛しているのに」
「俺だって……亮一さんが好きすぎて、どうにかなりそうです。許されるなら、もっと見ていたいぐらい」
「……じゃあ、今度は」
 亮一さんが笑いながら、ゆるく腰を動かした。あ……また、亮一さんの、硬くなってる。
「お互いに顔をそらさず、してみようか。顔をそらしたら罰としてキスをすること」
「そんなの、嬉しくて罰になりません」
 くすくす笑って俺は亮一さんに抱きついた。
 欲しくて欲しくてたまらない気持ちは、きっとふたりとも同じなのだと信じて。



「わあ、雨が上がったみたいだ」
「そうだな。あ、明日叶、あそこ見て、虹が出ている」
 色っぽい時間をホテルで過ごしたあと、俺と亮一さんは車に乗って軽く一回りしていくことにした。ビルとビルの向こうに、薄い色の虹が見えて、とても綺麗だ。


 もうそろそろ帰らないと食堂での夕食を食いはぐれてしまいそうだけど、それならそれでどこかで食べていこう、と言う亮一さんに頷いた。
 今日は貴重なデートだ。チームグリフのリーダーとして、最上級生としていつも忙しくしている亮一さんを独り占めできる時間は、考えているより結構少ない。
「ね、……亮一さん。亮一さんは学園を卒業したら、マニュスピカになるんですよね」
「そうなったら嬉しいね」
「俺もあとを追いたいけど、確実に二年は離れてしまうんですよね……。それが最近、考えていて寂しいことです」
 胸にある不安を素直に言葉にすると、ふっと笑った亮一さんが、俺の髪をくしゃくしゃとかき混ぜてきた。
「安心して、明日叶。俺は、たとえどんなに離れていてもきみと一緒に過ごす時間を作るよう、こころがける。たとえ危険なミッションにあたっても、絶対にきみのところへ戻ってくるよ」
「亮一さん……」
 かけがえのない言葉がもらえた気がして、胸が熱い。


「……俺、亮一さんを愛してます」
「先を越されたな? 俺も、明日叶を愛しているよ。誰よりも大切にすると誓う。……正直、いまだってまだきみが欲しいんだから」
「あ、あんなにしたのに? 俺、もう声が出ませんよ」
 顔を赤らめて言えば、亮一さんは「明日叶」と少しだけ掠れた色気のある声で囁く。
「きみの名前を呼ぶたび、俺の中に火が点くんだ。抱いても抱いても満足できない、永遠に飢えたなにかがあるんだな。きっと。明日叶はそんな俺がきらい?」
「きらいになるわけ、ない。あなたのことをいつだって想っているのに……」
 もどかしい想いをどうにか形にしたかったけれど、適当な言葉が見つからなくて、思いきって身を乗り出し、亮一さんの頬にくちづけた。
「明日叶」
 思ったとおり、亮一さんは目を丸くしている。
「俺だって、亮一さんが大好きなんですから」
「まったく、きみときたら。……明日叶をまた食べたくなってしまった」
 楽しげに言う亮一さんに、俺も頷く。
「もう少し、そのへんを回ったら……あの、……えっと、……」
 肝心なところが、どうしても恥ずかしくて口にできない。
 俺がもじもじしていると、亮一さんがくすくす笑いながら囁いた。
「もう一度、きみを抱いてもいいかい? 今度は寮の俺の部屋で」
「……はい。俺も、あなたに抱かれたい」
「すごい殺し文句だな。俺以外に言っちゃだめだぞ」
「言うわけ、ありません」
 胸を張って澄まして言えば、亮一さんも笑顔で頷く。そのとたん、盛大にお腹が鳴ってしまった。
 お腹の音は亮一さんにも聞こえたようで、盛大に噴き出している。


「あ、あの、これは」
「いやいや、可愛い音を聞いてしまった」
 すると、亮一さんからも、ぐうっとお腹の鳴る音が聞こえた。
 偶然の一致に互いに目を合わせ、次の瞬間、声を上げて笑い出してしまった。
「抱き合う前に、たっぷりとした食事が必要かな。俺ときみは嘘をつけないたちのようだね」
「ですね。なに食べましょうか」
「イタリアンにフレンチに和食に中華に……」
 楽しげな亮一さんが走らせる車の先には、きらきらとした虹が俺たちを誘うように美しく輝いていた。