ZELDA Freak/No.5 ...02

「チカ、さん……」
「最後の五番らしい。さすがに分をわきまえてねえな」
 気が短いらしい加藤が薄笑いを浮かべながら立ち上がり、唐突に加納の髪を掴み上げてきた。
「……ッ!」
「おまえは今日から五番としか呼ばれないんだよ。数字でしかない。成澤の躾けに耐えられなくて脱落する日が来たら、また加納恭平と呼んでくれる凡人どもが待つ世界に戻れる。……いまからでも遅くないぜ。逃げたほうがいいんじゃねえのか?」
「加藤さん、そのへんにしてあげてください。五番は俺の奴隷候補ですから、それ以上加藤さんの味を教えないでください」
 淡々と遮る成澤が近づいてきて、加藤の肩に手を置く。それで、――助かった、このひとは見かけ以上にいいひとかもしれないと思ったのが大間違いだった。
 高圧的な加藤が含み笑いしながら離れ、ほっとするあまり涙を滲ませた加納を眺め回す成澤がゆっくりと背後に回る。
 そこから先はあっという間だった。
 成澤はシャツの胸ポケットから取り出した極細のワイヤーで加納の両脚を大きく広げさせ、椅子の脚にくくりつけた。
「な――っ、……なに、するんですか!」
「俺の五番の味見」
 黒髪をかきあげる成澤はポケットにもう一度手を入れ、銀色に光るバタフライナイフを取り出す。
 ぱちん、と留め金がはずれる音が、どこか遠いところから聞こえてくるようだった。真っ青な顔で硬直するしかない加納の頬にぎらりと輝く刃をあて、くく、と笑う成澤はそのままナイフをすべらせていった。
 ネクタイの結び目ををかいくぐり、ブツン、と糸が切れてワイシャツのボタンが弾け飛ぶ。
 二個目も、三個目も。
「あっ……ぅ……」
 恐怖のあまり、身じろぎもできない加納はただただ目を瞠るだけだった。不用心に動けば刺されるのは間違いない。その証拠に、成澤は楽しげに笑っているだけだ。
 ――罪悪感がゼロ。
 チカの言葉が霞む意識によみがえる。まさか、殺されるんだろうか。いや、そこまでしなくとも、不具にされるかもしれない。
 つうっとすべっていくナイフは器用にスラックスのジッパーを切り裂く。そこでようやく成澤はナイフをしまい、がたがたと震える加納の背後に回って囁いてきた。
「あんたのそこ、見せて。扱いて勃たせてみな」
「……そんな、できるわけな……っ」
「やれよ」
 目にも留まらない速さでナイフを喉元に突きつけられ、悲鳴をあげそうになった。もはや理性はなんの役にも立たず、涙が次々にあふれ出る。
 曇る視界の向こうでは、チカたちが楽しげに見守っていた。
「ほら、やれよ。いつもあのひとたちに苛められたいって思ってたんだろう? ショウを見たあと、いつも自分で弄ってイくぐらいの変態なんじゃないの? オナニーが好きなんだろ、あんた」
「違う、――ちが……」
「俺の言うことに間違いはないんだよ」
 むりやり両手をそこに這わされても、こんな状況で感じられるはずがない。だが、成澤のほうも手をゆるめるつもりはないらしい。慣れた手つきで加納のそこを剥き出しにし、プレイヤーたちに見せびらかす。
「勃ってもないのに濡らしてるよ、こいつ」
 成澤の嘲笑に、全員が声をあげて笑い出した。加納ひとりが悪夢に放り込まれた気分だった。
 確かに奴隷志願をしたけれど、こんな目に遭うとは思っていなかった。
 もっとやさしく、淫らな言葉で絡め取られていきたいと思っていたのに、現実は思わぬ方向へと向かって突き進んでいく。
 ここに来たことをこころから悔いる反面、だが、身体の奥のほうでどうしようもなく熱く滲み出すものがあった。
「……っ……ぁ……っ」
 勃ってもないのに濡れていると笑われた性器に、成澤の指先が触れている。一回りも下で、自分の生徒であってもおかしくない男の指がかすかに動き、先端の割れ目をつぷっと開いただけで、とろっとひとしずく愛液がしたたり落ちた。
「あ……」
「ほら、わかっただろ。……自分がどれだけ淫乱か認めろよ」
 悪辣な若々しい声に、違う、そんなんじゃないと反論しようとしても、くちびるがうまく動かなかった。代わりに、とめどない熱い吐息がこぼれてしまう。しだいに、そこに絡まる自分の指が見えない糸で操られるように動き出した。
 ――こんなの、俺の意思じゃないのに。俺がしたいと思ってることじゃないのに。
 ぬちゅっと音を立てて扱く性器が硬く、濡れていく。
「いつもどうしてる? なにを考えてオナニーしてる? 生徒の顔でも思い浮かべてるのか」
「……っ……しない、そんな……」
「じゃあ、どんなことを考えて自分のチンポをそんなふうにいやらしく扱いてるんだよ。……あんたね、今回の奴隷候補のなかじゃもっとも淫乱だって判断されたんだよ。自分じゃ地味で目立たないと思ってるんだろう。教師って立場だから変な真似もできないと思ってるんだよな。それで? こういうクラブに来て憂さ晴らししてるわけだ。ほんとうは俺たちに突っ込まれてよがりたいんだろ?ここにいる全員に犯されて、ザーメンをぶっかけられながらイキたいんだろ?」
 ぐいっと髪を掴み上げられ、激する感情を浮かべた真っ黒な目と正面からぶつかった。
「言ってみろよ、どうしてほしいか。言えたら願いを叶えてやる」
「……ぁ……――」
 息が止まりそうだった。
 かぎりなく動物に近い、とチカが称賛しただけのことはある。経験を積んですぐれた技能を持つチカたちとはまた違う、獰猛な若さを武器とした成澤の容赦ない言葉に翻弄され、性器ががちがちに張りつめてしまう。ぴんと伸びた皮膚は痛いぐらいで、力加減を間違えばすぐにも達してしまいそうだ。
 ――チカさんたちに犯されたら。俺はどうなってしまうんだろう。みんなが見ている前で、はしたなくイッてしまうんだろうか。ここにいるみんなに輪姦されたいなんて――そんなことをほんとうに俺は望んでいるんだろうか。
「あ、あぁ……っ」
 夢中で自分のそこを弄っていると、成澤がぐいっと頭を掴んでくる。朦朧とする意識で振り向くと、成澤が自分のベルトをゆるめていた。それを見ただけで、頭の中が熱くなってくるなんんて、ほんとうに気が狂ったのかもしれない。
「しゃぶれよ」
 完全に勃起した男の性器を頬に擦りつけられ、泣きたくなってきた。怒張した成澤のそれは先端が大きくめくれあがり、小孔からとろとろとしずくをこぼしていた。赤黒い筋を浮き立たせた太竿は、端正に整った成澤の面差しとは不釣り合いなほどの大きさで、濡れて淫らに光る先端は淡く生々しい肉の色を見せて、ひくついている。
 自分のそこを弄り、加納は恐怖に怯えて泣きながら成澤のものを頬張った。
 最初から腰をぐっと突き挿れてくる男のもので口蓋をいやというほど擦られ、喉が反り返ってしまう。
「んっ……ぅ……」
 くぐもった声をあげた。


 男のものを咥えるのは、これが生まれて初めてだった。ナイフで脅され、強制されているのだからしょうがないと言い聞かせても、じゅぽじゅぽと音を立てて逞しいものを舐めしゃぶっているのは、みずから望んでいることなのかもしれない。
 恥ずかしくてたまらないが、あとからあとからあふれ出る先走りの味がどんどん濃くなっていくせいで、意識が蕩けてしまいそうに感じてしまう。
 ――こんな味がするんだ。男の性器はこんな感触がするんだ……。
 舌の表面で味わう男のものは雄々しくみなぎり、加納が息を吸い込むタイミングを微妙に見計らって突いてくる。なめらかな亀頭がぐちゅぐちゅと出たり挿ったりして息苦しいが、皆の前で足を大きく広げ、自分のそこを小刻みに扱くことも止められなかった。
 喉元にはまだナイフが突きつけられていた。少しでも手が止まったり、熱い肉の塊を奉仕する舌を休めたりすると、鋭い切っ先が食い込んでくる。
 ちくりと刺すような痛みの裏側に、どうしようもない濃密な快感が待っているというのが真実なのかもしれない。
「やっぱり、最後に残しておいただけあったね。ここまで乱れるとは思わなかったな……。真面目な職にあるひとほど、反動が大きいね」
「どうする。成澤の提案どおり、あとで全員でまわすか?」
「もう少し躾けてからのほうがいいんじゃないですかね。せっかくなら、ゼルダのショウに出して、大勢の客の前で輪姦したほうが楽しい。なあ成澤? 五番の羞恥心ってのをもっと鍛えてからのほうがいいよな?」
 くすくすと笑うチカや真柴、加藤たちに視姦されるという底のない快感が、脳髄を深く食い荒らしていくようだった。
 成澤が笑いながら、「ええ」と頷いた。そのあいだもぐっぐっと腰を突き出し、凶器のようにそそり立つ男根で加納の口を犯し続けていた。
 射精には至っていないのに、とろりとした蜜がずっとさっきから加納の口内を濡らし、唾液と複雑に混じって喉をすべり落ちていく。濃くて、甘くて、毒のような蜜だ。
「もう少し……そうだね。こんなのはまだまだ序盤だし。このひと、やさしく苛められたい願望があるって言ってたけど、ほんとうは、こんなふうにむりやり犯されたいんだよ。……ああ、もうイキたいか? だったら、おまえから先にイケよ。奴隷なら奴隷らしく、たっぷり溜めてんだろ。思いきり出してみな」
 ――奴隷なら奴隷らしく。
 その言葉が胸の奥をずきりと刺した瞬間、口いっぱいに押し込まれた肉棒がぐうっと大きくなった。
「ン――ッ……ん、んっ……く……っ!」
 どぷりと放たれた熱い液体が、喉奥まで満たしていく。それと同時に、加納もいままでに味わったことのない強烈な絶頂感に達し、チカたちが熱っぽく見守るなか、大量の白濁を飛び散らせて泣いていた。
 いまはただ、泣くしかなかった。暴かれた欲望は、もうもとに戻らないのだ。