SADISTIC Freak/No.5 ...04

 鳴澤は、クラブ・ゼルダからタクシーで少し行ったところにある麻布のマンションに独り暮らしをしていた。この若さで麻布に住んでいるなんて、と素直な憧憬と疑問が顔に出ていたのだろう。タクシーを降りて先を歩く鳴澤が振り返微笑む。
「こんなところに独りで暮らしているなんて、って不思議に思ってるか」
「はい、素敵なマンションだと思います」
「俺はデイトレーダーなんだよ。大学の講義を受ける以外の時間は、ゼルダかパソコンの前で過ごしている。おまえ、チカさんが凄腕のデイトレーダーだって知ってたか」
「そうなんですか? 個人的なことを話す機会がなかったので、初めて知りました」
 それにしても、立派なマンションだ。低層階の形式で、一戸一戸の部屋が相当広いのだろう。
 エントランスフロアには、笑みを浮かべたコンシェルジュまでいた。部屋のキーをくるくると回しながら、鳴澤はエレベーターに向かう。恐縮しながら、加納もそのあとをついていった。
 そして、驚いた。二階の全部が鳴澤の住居だったのだ。
「こんなに広いんだ……」
 半円形の玄関の先には廊下がずっと続いている。いちばん奥まったところに、かすかに夜景が見えた。両際にいくつ部屋が並んでいるかわからない。
「来いよ。奥で飲み物でも出してやる」
「あ、はい、おじゃま……します」
 緊張しながら渦模様が美しい大理石を敷き詰めた玄関で靴を脱ごうとすると、「そのままでいい」と言われた。
「寝室以外は靴のままでいいんだ。業者に清掃を任せている」
「そうなんですか」
 ああ、と頷いて、鳴澤は奥へと入っていった。
 リビングと思しき部屋も半円形で、はめ殺しの窓の外には見事な夜景が広がっていた。
「綺麗だ……。すごいですね、こんなところに独りで住んでいるなんて」
「そうか? 住んでいると慣れてしまう。とりあえずソファに座れ」
「はい」
 命令どおりソファに腰掛け、飲み物を出されるのを待ったが、目の前に鳴澤が立った。
「俺の精液を飲ませてやる」
「な……っ……!」
「しゃぶれ」
 自らスラックスの前をくつろげる鳴澤の目は熱っぽく、ぶるっと跳ね出た凶悪な硬さの男根を根元から捧げ持つ。その秀麗な面差しと、生々しく勃起する性器にはギャップがありすぎて、まじまじと見入ってしまう。
「あの……しゃぶって、いいんですか、……俺が鳴澤様のものを……」
「ああ、許してやる。へたくそだったら顔にぶっかけてやる」
 整った顔立ちなのに、物騒な物言いをすることにも胸が熱くなってしまう。
 彼の性器を間近に見るのは、もしかしたらこれが初めてじゃないだろうか。手で触らせてもらったことは数度あるが、口で愛するのはまれだ。
 極端に反り返った肉棒はエラが張りだしていて、先端の割れ目から透明な滴がこぼれ落ちそうだ。髪を掴まれたことで、慌てて舌を出した。
「ん……っ」
 ちゅぷ、と亀頭に吸いつき、鳴澤だけのにおいと熱さに陶然となり、何度も割れ目を縦に舌で舐め上げた。そうすればするほど滴は垂れ落ちてきて、口内を熱く満たす。
 なんて素敵な熱さなんだろう。若いせいか、勃起の角度も素晴らしい。わざわざ指で持ち上げなくても竿の裏筋を舐めることができる。
「顔を傾けて、しゃぶるところを見せろ」
「っ……ん、はい……」
 亀頭の先端を指で愛撫しながら顔を傾け、竿をくちびるで挟んでやわらかに扱く。硬い弾力に、ローターを挿れっぱなしの尻がもじもじと動いてしまう。
 ちらりと見上げると、鳴澤が冷ややかな視線で見下ろしている。性器はどうしようもなく発情しているのに、その表情はまったくもって冷静なのが悔しいのだが、鳴澤らしくてますます惹かれる。
 ――感じているのは、俺だけなんだろうか。
「鳴澤様、俺は、へたですか……」
「どうしてそう思う」
「だって……あなたのここは、すごく硬くなってるのに、……あなた自身は冷静で……」
「俺がどう思うか、そんなに気になるのか」
「気になります」
「どうして」
 恋しているから、と恥じらいなく言えたらどんなに楽だろう。だけど、欠片ばかりの羞恥心と理性が残っているから、フェラチオに没頭した。じかに触れ合うことを厭う鳴澤のそこを咥えさせてもらえるなんて幸運は、めったにないことだ。
 浮き立った太い筋を尖らせた舌先でツウッと舐め上げ、くちびるの中に亀頭を招き入れる。横から咥えるのもいいが、やっぱり正面から喉奥まで含むのがいちばんいい。鳴澤の情がわかるような気がして、ぎこちなく頭を上下させると、はっ、と短い吐息とともに鳴澤が両手で頭を掴んできて突き込んできた。亀頭でごりっと口内を擦られ、いやでも感じてしまう。
「――ん、ん、ッ……んっ……!」
「いきそうだ。全部飲め。いいな」
「はい、ん、っ、っ、あ、っ……ッ……!」
 白濁がびゅくっと喉奥に引っかけられたと思ったら、口内がとたんに熱く満たされた。
「ん――ン……ぁン……」
 脈打つ肉棒を両手で掴み、あふれ出す精液を懸命に飲み込んだ。むせ返りそうなほどの量だが、一滴もこぼしたくない。
「……口、開けてみろ」
「……ん、……」
 前髪を掴まれた衝撃で、くちびるをかすかに開いた。まだ飲みきっていない彼のものが口の中に残っているのを見られるなんて。罪深い愛撫の証を晒すのは恥ずかしいのだが、口内に指を挿し込まれてかき回す仕草になぜかうっすらとしたやさしさを感じて、おとなしくしていた。
「いい子だな……全部飲めたみたいだ。俺のザーメンは美味かったか」
「はい、……とても美味しかったです。濃くて、熱くて……っぁ……」
「そうだった。まだローターを挿れたままだったな。床に這いつくばって、尻を上げて自分で抜いてみろ。うまくできたら……」
 そこで言葉を切って意味ありげに笑う鳴澤に、胸が昂ぶる。
 ――挿れてくれるんだろうか。
 聞き返したら興を削ぐだろうから、もたつきながら床に四つん這いになり、羞恥に身体中を熱くさせながら下着ごとスラックスを脱いだ。
「なんだ、もうびしょびしょじゃないか。これじゃ下着を替えるしかなさそうだな。封を切ってない新品はいくらでもあるから貸してやってもいいが、下着を穿かずに帰してもいい」
「――ぁ……ッ!」
 ローターの埋まった尻の狭間から陰嚢を人差し指でなぞられ、呻くほどに感じてしまう。もう少し指を伸ばしてもらえれば、はしたなく硬くなっている性器に届くのに。
「あ、あ、っ、んっ、なるさわさ、ま……っ」
 ローターを引き抜くため、窄まりの中に指を挿れて開く仕草が鳴澤の視界にどれだけ卑猥なものに映るかわからずに、加納は熱を高めていくことに夢中になっていた。
 羞恥に肌まで赤く染まり、四つん這いになっていることで膝が絨毯に擦れてわずかに痛いのだが、それさえも快感となる。
 ――全部見られている。ひくつく孔の奥まで、鳴澤様が見ている。
「……なるさわ、さま……っ」
 中を探りながらなんとかローターを抜いたと思ったら、中にスウッと指が挿ってきた。
 二本。熱い指がくの字に曲がって上側を擦る。
「あ……っ!」
 鳴澤の指を火照る肉襞で感じ取り、急激に快感が強まる。
「あ、っ、だめ、中、擦ったら……っ……や、イく、イっちゃう……っ!」
「犬らしく床に射精しろ」
「ん、ぁ、っ、んんんっ、ぁ――はぁ……っ、あ……っ」
 絨毯をかきむしり、堪えることができずに四つん這いのまま射精した。全身が激しくふるえ、熱いものが腰から頭の中まで突き抜けていく。
「あっ、……あっ……あぁ……」
 喘ぐ間も射精が止まらず、絨毯を濡らしてしまう。卑猥に濡れたローターが視界に映る。
「ご、めんなさい、俺……汚してしまって、……」
「構わない」
 背中を撫でる手がどこかやさしく感じられるのは気のせいだろうか。
「あーあ、奮発した絨毯がおまえの精液でべたべただ。業者に秘密裏に依頼して染み抜きしてもらうしかないな」
「……ごめんなさい……」
 床に倒れ込みそうになる加納を、鳴澤が支える。そして、顎を掴み上げてきた。
「もう少し先のことがしたい」
「鳴澤、様……」
 まさか、セックスをしてくれるのだろうか。
 挿れてくれるのだろうか。
 身体を熱くさせて鳴澤に抱きつこうとしたとたん、視界が闇に覆われた。
 目隠しを、されたようだ。