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8/20 大阪インテ

8/20 6号館Bそ27b「Cult7」

※小銭のご協力をお願いいたします。
※朝一番での万札はご遠慮下さいませ。
※すべて18禁です。

※夏コミの新刊を入れています。

☆新刊
「パパとあのことかわいいあのこ」28P 300円 18禁
『パパと呼ばないで!』番外編です。
家族として日に日に親しさを増していく大神と遼一と真琴。
3人で初めての家族旅行に出かけることになり……? という甘めのお出かけ話。
このサンプルに18禁要素はありませんが、本編後半にその描写があります。


書店委託は、コミコミスタジオさんにお願いしております。

☆既刊
「あなたの猫になりました。」(「今日から猫になりました。」番外編)500円
「Re:他人同士」(『他人同士』番外編)1000円
「愛してる&愛してる」(『誓約のうつり香』&『仮面の秘密』MIX番外編)300円
「真夏の誓い」(『くちびるに銀の弾丸』番外編 18禁)300円
「僕は南くんの犬です」(『誓約のうつり香』番外編)500円
「チカ☆チカ☆エスカレーター!」(『誓約のうつり香』番外編)2000円

折り畳み記事にサンプルがあります。 「悠人、夏休みはどうしようか」
「もちろん、みんなで旅行だよ。ねー、真琴くん」
「ねー、おーさん」
 仲よしコンビの大神悠人、そして可愛くて可愛くて天使としか思えない我が甥っ子、真琴が笑顔で頷き合っているのを見て、テーブルの向かいに座る関遼一は苦笑してしまう。
 夏の陽射しがまぶしい八月最初の土曜、いつもより一時間ほどゆっくり眠って元気いっぱいの真琴と遼一、そして超がつくほど忙しい人気漫画家の大神は二時間遅れぐらいでベッドにすべり込んできて熟睡したのだろう。顔色もいいし、美味しそうに遼一が作った朝ごはんを食べている。今朝のメニューは、真琴のリクエストであるパンケーキに蜂蜜とバター。カリカリのベーコンも添えて、サラダもガラス製のボウルに綺麗に盛り付けた。子ども向けのメニューは、見た目がとても大事だ。栄養はもちろんだが、可愛かったり、綺麗だったりするお皿に子どもは喜んでくれ、いつもより多く食べてくれるものだ。真琴は四歳にしては小柄なので、いっぱい食べてほしい。いまのままでも十分キュンとしてしまうけど。
 ちょっと真琴寄りになってしまったかなと内心反省している遼一の前で、大神はにこにこしながらパンケーキを口に運んでいる。今日の彼は爽やかな白いTシャツに、ゆるめの麻のパンツを合わせている。もともと男らしい顔立ちだし、デスクワークが長いわりには姿勢もいい。足なんか遼一よりずっと長い。『もっと決めちゃってもいいのに』と言うと、『なんか恥ずかしいし』と照れたような笑みが返ってきて、深い恋ごころを確認した。
 そんな恋人の横にいる真琴はくまのアップリケがついた赤のTシャツに青いショートパンツだ。子どもはこれぐらいメリハリのついた色味が似合う。真琴は面差しがやさしいので、もっと髪を伸ばしたら女の子に間違われそうだ。ちいさないまのうちに、いろんな格好をさせるのもきっと楽しい。
「遼一の料理はほんとうに美味しい。このパンケーキもふわふわだし、ベーコンもじゅわっと味が染み出る。美味しいねー、真琴くん」
「ねー」
 また頷き合っているふたりに、思わず笑い出してしまった。胸のポケット部分だけ白のドットが散っている紺地のTシャツと七分丈のパンツを穿いた遼一は、みずみずしいトマトを口に放り込んで美味しく噛み締める。甘酸っぱい、夏の味だ。
「旅行、どこに行く? 悠人が忙しいだろうから、近場でどうかな。どれぐらい休めそう?」
「ん、んー……頑張って、二日……かな」
「ありがとう。それで十分だよ。一泊二日、みんなと一緒にいられたら嬉しいな。真琴はどこか行きたいところ、ある?」
「うみ!」
「海?」
 目をきらきらさせる真琴に、大神は切り分けたパンケーキを口に運ぶ。それから、真琴のくちびるの脇についた蜂蜜を指で拭ってぺろりと舐めている。その仕草は、まるでほんとうの父親のようだから、胸が温かくなってしまう。
 僕はいいひとに愛してもらえたんだな。
 よかった、と胸の裡で呟く。自分だけではない、真琴にとっても大神のもとで庇護してもらえることはなによりもの安心に繋がっているのだろう。その証拠に、真琴はこころからの笑みを浮かべ、隣に腰掛けている大神に身体を擦り寄せるようにしている。あんな仕草、よほどこころを許した相手にしかしない。大神も、キッズチェアに座った真琴が誤って転げ落ちないよう、よく見てくれている。
「じゃあ、海に行こうか。次の土曜と日曜はどうかな、悠人」
「大丈夫。絶対大丈夫。なんとかするから任せて」
「ふふっ、ちょっと心配してしまう」
 おおかた食べ終えたみんなの皿を集め、遼一は食後のカルピスを三名分入れて渡した。
「やったーかるぴすー」
「美味しいよね、これ。あなたたちと一緒に暮らすようになって、思い出した味だよ」
「夏になると飲みたくなるんだよね。こら真琴、そんなに急がなくてもいいんだよ。ゆっくり飲んで。保育園は今日はお休みなんだし」
「あ、おやすみ。じゃ、じゃ、おーさんあそんでくれる?」
「いいよー、もちろん。お外に出るならいまのうちだよ。午後はもっと暑いし」
「こうえん、いきたい」
「オッケー。遼一はどうする?」
 ストローでグラスの氷をカラコロ回す大神に、「んー」と考えてから、皿を持ち上げる。
「僕は、旅行のことを煮詰めちゃおうかな。洗濯もしたいし。真琴を頼んでもいい?」
「もちろん。だったら、遼一に旅行のことを全面的に任せちゃおう。お願いするよ」
「任せて」
 嬉しそうに頷く大神は、この自分にベタ惚れなのだ。そう思うとどこか照れくさくて、やっぱりしあわせで、頬がゆるむ。
「そろそろ、真琴に俺のことをパパって呼んでもらおうかな」
 最近の大神は真琴を愛しすぎるあまり、「パパ」と呼んでほしくてたまらないらしい。
「ぱぱ? ……おーさんは、おーさん」
 澄ました顔の真琴がなんとも可笑しい。
「じゃあ、僕は?」
 テーブル越しに身を乗り出すと、真琴がにっこり笑う。
「りょういち」
「うん、いい発音。真琴偉いねえ」
「やったー」
「うう、俺は諦めないよ」
 奮闘を新たに誓う大神に内心苦笑し、遼一は手を伸ばして大神の少し硬めのくせ毛をやさしく撫でたあと、真琴の柔らかな栗色の髪を指で梳く。パパと呼ばれなくても大丈夫、大神はいいお父さんだ。大神がまぶしそうな顔で、頭を擦り寄せてくる。
 大きな獣と、その子ども。雄々しくて、可愛くて、頼もしくて、未来のあるふたり。そんな彼らのそばにずっといさせてほしい。
 遼一はとびきりの笑顔をふたりに向けた。
「お外、行ってらっしゃい」



 さて、一泊二日でどこに行こう。海というリクエストを受けているから、千葉かはたまた静岡方面か。
 洗濯機に三人分の洗濯物を放り込んでスイッチを押したあと、遼一はリビングのソファに座ってタブレット式デバイスを弄っていた。これは先月、大神がプレゼントしてくれたものだ。誕生日でもないのにそんな、と一度は固辞したのだが、『よく頑張ってるし、ボーナスだよ』と言われた。いや、ボーナスはべつにもらっているし、食事だって連れていってもらった。
『普段の生活の中でこれがあったら助かることもあるだろうし。そんなに高くないものだからもらって?』
 大神らしいやさしい笑顔で請われたら、いいえ、なんて言えない。
『ありがとうございます。大事にしますね』
 しあわせにしてもらえている事実を胸に刻んだタブレットで、「海 静岡」と入力して検索をかけてみる。
 ずらりとヒットしたが、「静岡 熱海 花火大会」という一文遼一の目に飛び込んできた。
「熱海かぁ……」
 熱海なら、東京駅から新幹線ですぐ行けるだろう。なんとなく昭和のイメージの町だが、ちいさな真琴から見たら物珍しく映るかもしれない。
 それに、海もある。山も、温泉も。ちょっと行けば伊東や箱根だ。
「熱海城? こんなのもあるんだ」
 史実の中に熱海城というのは存在していないはずだから、これはいわゆるお城の形をしたテーマパークだ。それもなんだか楽しい。近いようでいて、ちょっと遠いところにある熱海。さらに検索をかけてみると、ごはんも美味しそうだ。
「うん、ここにきーめた」
 次に、子どもが楽しめそうな宿探しだ。古めかしい旅館もいいし、おしゃれなホテルも捨てがたい。
 熱海港の前にあるというホテルを調べていると、今度の週末、花火大会があるようだ。そして、運のいいことに、オーシャンビューの部屋が一室だけ空いていた。これなら、もしなにかあって部屋にいることになっても花火が楽しめる。子ども連れは不測の事態に備えることが大切だ。
 すぐさまオンラインで部屋を予約。それから急いで必要な物をリストアップした。無職の遼一と幼子の真琴が大神のもとに身を寄せてから、できるかぎり無用な物は買わないようにしていた。そうでなくても、初めての恋に浮き立つ大神があれこれとふたりに贈り物をしてくれ、嬉しさと申し訳なさが募るのだ。遼一はこのデバイス、真琴は昨日、大好きなくまのぬいぐるみをもらって大はしゃぎしていた。
『家族にしてもらえたお礼だよ』
 大神はそう言ってくれるけれど、あまり負担はかけたくない。この旅行だって、大神持ちなのだし。前に住んでいたアパートからこの部屋に越してきたとき、使えるものはきちんと持ってきた。どんどん大きくなる真琴の服は買い換えるにしても、リーズナブルに済ませようと思えばいくらでも方法はある。近所の公園で開かれたフリーマーケットにみんなで行き、お祭り気分を楽しみながら、まだ綺麗な子ども服をリサイクルとして安価に譲ってもらうことができた。遼一が今日穿いている七分丈のパンツもそう。サイズが変わってしまったという男性から譲ってもらい、おまけにもう一枚プレゼントされてほくほく顔で大神のところに戻ったら、『遼一が可愛いから目が離せないよ……』とため息交じりに言われて頬が熱くなったものだ。どうも、相手の男が色気を出したと勘違いしたらしい。違う違うと何度否定しても、『だってプレゼントされてるし』と拗ねられたので、最後には笑ってしまい、真琴を真ん中にして手を繋ぎ、みんなでアイスクリームを食べに行ったのだった。
 そういうわけで、必要以上のお金を使わずとも楽しく過ごせることを大神にも伝えたい。もちろん、彼には彼のポリシーがあるだろうから、無理強いはできないが。
 ネットショッピングで子どもようの浮き輪、大人用の浮き輪もひとつ買う。現地調達もいいが、やっぱり高いのだ。水着もそれぞれの身長に合わせて、大神は青のハーフタイプ、真琴はイメージカラーの赤、遼一はちょっと派手目に黄色にした。
「まるで信号機だな」
 思わず笑ってしまう。でも、これぐらい派手なら、はぐれることもないだろう。すべて明日の配達にしてもらい、そういえばボストンバッグも出さなければと考える。急いで虫干ししよう。引っ越してくるときに使った黒のボストンバッグがある。
 あとはなんだろう。見落としていることはないか。ソファにのけぞり、天井を見つめる。
 クリーム色で、どこにもシミひとつない綺麗な天井。豊かな暮らしの象徴だ。とつない綺麗な天井。豊かな暮らしの象徴だ。