SADISTIC Freak/No.5 ...02

 紺のブレザーに明るい焦げ茶色のズボンは、加納の勤める学校のすぐそばにある進学校の制服だ。
「ねえ、あなたどこに勤めてんの? この路線のどっか?」
「横埜、そんなのどうでもいい。ほら、咥えさせてやるよ。高校生のズル剥けチンポ。欲しかったんだろ」
 ブレザーを邪魔そうに脱ぎ、短い黒髪の男子高校生がぬっと眼前に突き出してきたのは、エラの張った赤黒い男根だ。まだ高校生なのに深い色が淫らで、幾筋も太い血管が浮いていることに気づいて思わず息を呑んだ。
「漆原は乱暴だよなぁ、ホント」
 横埜と呼ばれた男はため息をつきながらもズボンのジッパーを窮屈そうに下ろし、ぶるっと性器を飛び出させて舌なめずりする。こっちは漆原とは対照的な仮性包茎だ。大きさは漆原を上回る。恥垢は溜まっていないようだが、独特の甘酸っぱく饐えた匂いがする。明るく色の抜けた、少し癖のある髪が彼の華やかな顔に似合っていた。
「行きずりのリーマンにフェラしてもらうなんてAVみたいだよね。口、半端に開いてんのがたまんなくやーらしい……」
「あ、の……」
 男子トイレの個室の壁にすがり、加納は浅く息をしながらふたりを見やった。電車から引きずり下ろされ、駅員の目を盗んで男子トイレの狭い個室に押し込められていた。
「俺は、どうしたら……」
「交互にちゅっちゅしてよ。俺、見てのとおり仮性包茎だからさ、優しく口で剥いて。あ、風呂で毎日ちゃんと洗ってるから綺麗だよ。漆原、先におしゃぶりしてもらえば? 俺、わりと遅いし」
 横埜は優しい口調で、はしたないことをためらいもなく言う。
 横埜よりも逞しい体躯を誇る漆原が「おら」と腰を突き込んでくるので、慌てて口を開いた。
「ん――ん、っぅ……ぐ、ん、ッん、ッん」
「舌でもっと擦れよ。口、きつく窄めるんだよ……そう、結構うまいじゃん……ああ、いい、激しくすっぞ」
「う、う」
 漆原のものを口で舐りながら、もう片手で横埜のものを擦ろうとするのだが、仮性包茎の彼はあまり強く触られると痛いらしい。
 仕方なく漆原の逞しい男根を喉奥まで挿れてもらい、息を吸い込んで締め付けた。
「うお、……すっげえ、マジ、こいつ雌犬じゃねえの? こんなの女でもできねえよ、ははっ、……目ぇ、潤んでんじゃねえか。チンポがそんなに美味いか。おら、美味いって言えよ」
「美味しい、です……ん、んんっ、ぁッ、ん」
「たっぷり飲ませてやるからな。口開けてろ」
「あ、あぁっ、……あ、――ふ……」
 トイレの床に跪いた加納の顔にぴしゃりと濃い精液がかけられる。どくどくと若い雄の精液が口いっぱいに放たれ、えづきそうになったが、懸命に飲み込んだ。
 ――あとで鳴澤様に報告するために、飲まないと。どんな味だったかお伝えしないと。
 生々しい滴を飲み込み、ぬるついたくちびるも舌先でしつこく舐め回しているうちに、たまらなくなってくる。
「まだまだ足りないんだろ。もう一発してやるから安心しな」
「ずるいよ漆原、俺だってしゃぶらせたい」
 露悪的な漆原とは違い、にこりと笑う横埜は親しみやすそうな顔を向けてくるが、その口から次々に飛び出す破廉恥な言葉に思わず背筋が震える。
「ね、早く俺のもちゅっちゅして。皮んとこさ、舌でうまーく剥いてくれる? あなた、大人だからできるよね」
「……したこと、ないけど……」
「して」
 甘えた声で皮を被ったペニスを押しつけられ、仕方なく舌をあてがった。
 とたんに胸が悪くなるような、それでいてたまらなく癖になるような匂いを吸い込み、皮をちろちろと剥き下ろす舌に唾液がじゅわっと浮かぶ。
「こういうの初めて? 包茎って初めて?」
「はい、剥けてないチンポは、初めて、です……」
「でも、すっごく上手だよ。自分でするより全然いい……ああ、ちょっとずつ剥けてきた……気持ちいいよ……あ、ごめん、洗い切れてない滓はぜーんぶ舐めて」
「ん――ン……!」
 抉り込んでくる横埜の性器を懸命に舌で扱いた。


 これまで男の性器といったら、主人である鳴澤のものしかしゃぶったことがなかった。鳴澤のものは素晴らしく硬く、斜めに反り返っている。極端にエラが張りだしているせいで、口に含むのがつらいほどに大きい。
 あれで喉を突かれると苦しくてたまらないのだが、端整な顔立ちをした鳴澤の生々しい衝動を味わわせてもらっているのだと思うと、いつだって唾液が口の端から溢れてしまうのだ。
「ん、ぐ――ぅ……んッん……ん……ふ……」
「あはは、泣いちゃうほど美味しい? ごめんね、俺の包茎チンポ、なかなか誰にも舐めてもらえなくてさぁ……こんなに大きいし。ちょっと乱暴にしちゃうかも」
 涙混じりに、横埜の恥垢を舌先で丁寧に舐め取っている間に、股間がたまらなく熱くなってくる。漆原のものをしゃぶっているときより、ずっと濃い味に舌が蠢いてしまう。
 そのことを横埜も感じたらしい。加納の頭を鷲掴みにして激しく揺さぶってきた。
「言ってよ、ね、高校生の包茎チンポが美味しいですって。よだれだらだらこぼしながら言ってみて?」
 にこにこ笑いながら腰を突き動かしてくる横埜に、息を詰まらせながら必死に応えた。精一杯背伸びしている漆原より、誰を相手にしても変わらないのだろうと思われる横埜の微笑みになぜだかぞっとする。
「おいし、……っ、で、す、高校生の、包茎、チンポ、おいし……っ……」
「うん、お兄さん、いい子だね。ちゃんと口の中で剥けてきた……ごめんね、ほんとゴメン、最近オナニーもしてなかったからいっぱい出しちゃうね」
「ぁ、っん、や、もっと、もっと、もっとチンポ舐めたい」
 ずるっと抜かれてしまってすがりつくと、顔中ねっとりとした白濁をかけられて、笑われた。
 あまりにも突然、顔中に大量の精液を浴びせられて噎せた。
「顔、ぐしょぐしょにしちゃったね。顔射もご主人様の希望かな?」
「……ぁ……ッ……!」
 笑いながら加納の下肢を軽く踏みつけ、靴の裏でねじってくる横埜のそばで、漆原が奇妙な目つきをしている。
「まーたヨコの変な趣味が出た……。おまえ、年上好きだよな。この間も体育の先生犯したばっかじゃん」
「あれはさー、遊びだよ、遊び。おまえと違って最後までしてないし。ああいうムキムキの若いゲイもいいけどさ、俺、ほんとうに好みなのはこういう綺麗な大人で陰湿な変態なんだよね」
「……っん……! 踏まない、で……くださ……っ……」
「なんで? いっちゃうから?」
 腕組みをして屈み込んでくる横埜の口元に、ぽつんとちいさなほくろがあるのを見つけた。彼が舌なめずりするたび、そのほくろが妙にいやらしく見えて、正気を失いそうだ。
「ね、ね、あなたのとろとろおまんこ、見てもいい? もうぐちょぐちょになってると思うんだ。俺、はめたい。ご主人様にはめてもらってもいいかどうか聞いて?」
「そんな……」
 若い狂気に言葉を失った。
「ついてけねー。帰るわ、また明日な」
 漆原は苦笑いし、先に身支度を整えて個室を出て行ってしまった。


 残された横埜は、はみ出したシャツの裾から剥けきって完勃ちしたペニスを誇らしげにのぞかせていた。それを自分で扱きながら、加納の反応を確かめるようちらちらと視線を合わせてくる。
「ねえ」
 自分のクラスにいてもおかしくない年頃の男の切れ長の艶めかしい視線に、どうかなってしまいそうだ。
 楽しそうに微笑むまだ若い顔と、深爪気味の指で根元から扱き上げる生々しいペニスはギャップがありすぎて、頭がくらくらしてくる。爽やかな顔だけ見れば、こんな衝動を隠し持っているなんて思いもしない。
「さっきよりずっと大きくなったと思わない? 俺さ、……じつはセックスって体験してないんだよ。さっきみたいに口でいかせてもらったりするぐらいしかしてない。あなたぐらい年上の男のおまんこでぐちょぐちょにさせてもらいたんだけど、だめ? 俺の筆下ろしさせてくれない?」
「……ッ……」
 鳴澤とはまるで違う方向から襲ってくる衝動に、声がうまく出てこない。だけど、胸の真ん中には熱い塊があって、こうして横埜と視線を絡めている間にも、腰の奥がじわりと痺れてしまう。
「……ご主人様に、聞かないと……」
「じゃあ、電話してみて」
 鳴澤が、いいと言うはずがない。
 ずっと繋がっていた携帯電話をポケットから取り出し、「もしもし」と掠れた声で呼びかけると、さも可笑しそうな声が響いた。
 一部始終を鳴澤は聞いていたらしい。
『またとんでもない子を引っかけたんだね。淫乱な五番は特別な匂いでもあるのかな』
「……あの、……じつは」
「あなたがこのひとのご主人様?」
 突然横埜に電話を奪い取られた。
「俺の包茎チンポをすっごく丁寧に舐めてくれたんだよ。もう感じまくっちゃった。いまからこのひとを犯そうと思うんだけどいいよね?」
 スピーカーを通して鳴澤の可笑しそうな声が聞こえてくる。
『断ります。それは俺が所有しているので』
「ケチ。いいじゃん。だって車内で誘ってきたのはこのひとだよ」
『俺がそう命じたからです。手を出すことは許しません。もし彼をこれ以上陵辱するなら、横埜翔くん、きみは明日から学校に通えなくなりますよ』
「……なんで俺の名前知ってんの」
 横埜が唖然とした声を上げる。
『電話できみたちの行為を聞いている間に調べました。友だちは漆原修くんですね。高校三年で退学は嫌でしょう? だったら今日のところはおとなしく帰るように』
「ふーん……。はい」
 つまらなそうな顔で横埜が電話を返してきた。
「もしもし、……お電話代わりました、加納です」
『どういう状況だったかだいたいわかってるけど、俺に詳細を話すこと。このあと、店に来るように。もう寄り道はしないこと』
「はい」
 声を震わせて電話を切ると、衣服を整えた横埜が可笑しそうな顔でトイレの壁に寄りかかっていた。
「あなた。さっきのひとに苛められてひいひい悦んでるの?」
「……はい。すみません、巻き込んで」
「あのひととはセックスしてんの?」
「……忘れてください。そうじゃないときみにも迷惑がかかるから」
「もしかして、ちゃんとセックスしてないの? 挿れてもらってないの?」
 赤裸々な言葉に目を合わせないでいると、不意に腕を掴まれて振り向かされた。間近で、危うく煌めく黒い瞳が笑っている。
「教えて。もしかしてあなた、エロいことはたくさんしていても、男のものを挿れてもらったことがないんじゃないの?」
「いえ。――そんな……俺は、そういう直接的なことはしなくても……」
「嘘言わなくていいよ。だって、さっき俺のものをしゃぶってる間、すっげえ欲しそうだったもん。ただ経験がないから怖いんだよね? ご主人様って、もったいぶってんの?」
「違います!」
 敬愛する鳴澤のことをそんなふうに言われて黙っているわけにはいかない。声を荒らげると、くすくす笑う横埜が親指でくちびるをなぞってくる。少し引っ張られて、親指を咥えさせられた。
「ん……ッぁ……」
「こういう感じ、……あなたの身体の中で知りたくない? 親指ってさ、その男の性器の形に近いんだって」
 低い無意識に口腔を犯す太い舌を絡めてしまい、ちゅぽっと音を立てて引き抜かれたときには妙な疼きが生まれていた。
「ご主人様に内緒でまた会おうよ。俺、待ってる。携帯番号、これ。いつでも呼んでくれて構わないからさ」
 加納の携帯電話を奪って勝手に番号を打ち込んだ横埜が、勢いをつけて抱き込んでくる。弾みでよろけた加納は思わず彼にすがり、目を丸くした。
 鳴澤に内緒で会うなんて無理だ。
 そう言いたいのに、ひどく楽しそうな笑顔にはろくな反論ができない。明るい性格の男だと簡単には片付けられない危うさが横埜にはある。
「運命だと思うんだよね、俺とあなた。ご主人様の声、聞いたけど、冷たそうじゃん。あなたのこと絶対に大事にしてくれないよ。ポイ捨てするに決まってるよ。俺だったら毎日でもあなたを甘やかして、いっぱいキスもしてあげる。さっきみたいに『おチンポ欲しい』って言ってくれたら、とろとろのおまんこを舐めまくってぶち込んで上げるから。ね? また会おうよ。誰にも内緒で、俺と初めてのセックスしようよ」
 そう言って微笑み、横埜は耳のそばに軽くくちづけてトイレを出て行った。
 いかせてもらえなかったせいで、腰から下が妙に怠くて、疼いている。
 漆原と横埜という通りすがりの高校生のものを咥えるという異常な経験に呑み込まれて、達することを忘れていた。
 店に向かえば、鳴澤が待っている。どんなふうにいたぶられるかまったくわからないけれど、明日は土曜日だし、時間も忘れるぐらいたっぷりお仕置きしてもらえるはずだ。
 ――だけど。忘れられそうにない。
 洗面台で手を洗い、髪も綺麗に撫でつける加納は鏡の中をのぞき込む。
 情欲に潤んだ目や、ついさっきまで若い男の肉棒を美味しそうにしゃぶっていたことで濡れきったくちびるは正視できないほどの淫らさだ。
 こんな顔じゃとても店まで向かえない。鞄からマスクを取り出して装着したが、男のものを咥えて悦んでいたくちびるはまだ腫れぼったくて、ついマスクの上からなぞりたくなってしまう。
 鋭い眼差しで加納が抱く淫欲をすべて曝く鳴澤と、終始楽しげに笑いながら卑猥な言葉でがんじがらめにしていく横埜。
 ――選べるような立場じゃないのに。
 くちびるをきつく噛んで、加納はトイレをあとにした。